今回は圧迫療法の禁忌(やってはいけない状態)や注意点について説明します
一般的に以下のような状態では、圧迫療法は行ってはいけません
- 蜂窩織炎などの感染症による炎症(発症してすぐの場合)
- 心不全が原因の浮腫
- 深部静脈血栓症(発症してすぐの場合)
- 閉塞性動脈硬化症などの動脈血行障害
また、以下のような状態では、注意しながら実施します
- 高血圧
- 静脈瘤
- 麻痺
- 糖尿病などで感覚障害がある場合
蜂窩織炎などの感染症による急性炎症
蜂窩織炎に関しては過去の記事をご参照ください
発症した際はすぐに受診してください
施設によって対応は違いますが、手術をされた方は婦人科や乳腺外科など通院している診療科か、皮膚科になると思います
当院では、症状が落ち着いてから主治医と相談して再開しています
症状の経過は血液データで把握することが多いです
白血球(WBC)やCRPを見ています
流れは、発熱が治まる⇒WBCが下がる⇒CRPが下がる、の順で変化します
心不全が原因の浮腫
心不全とは、心臓のポンプ作用が弱っている状態で、血液の循環がうまく回らずに水分が身体全体に溜まりやすくなります
浮腫は急激に進行し、体重が1週間で数kg増えることもあります
リンパ分水嶺とは違う範囲で浮腫が出る場合もあり、下肢のリンパ浮腫のはずなのに手が腫れていたりすることで気づくことがあります
心不全による浮腫の場合、圧迫療法を行うことで心臓にもどる水分量を増やしてしまいます
それによって心不全が増悪する場合があります
心不全の場合は利尿薬(おしっこを出しやすくする薬)などで改善する場合があるので、気になる場合は先生に相談してみてください
当院ではリンパ浮腫の介入依頼があった場合、心不全が原因ではないと確認してもらってから介入するようにしています
急性期の深部静脈血栓症
医療者間では「DVT」と言っています
深部静脈血栓症とは、ふくらはぎやふともも、骨盤にある静脈に血栓(血の塊)ができて血管が詰まる病気です
この血の塊が剥がれたりして移動すると、その先にある肺の血管でつまることで肺塞栓を起こします
いわゆる「エコノミー症候群」というものです
最悪の場合死亡することもある怖い病気です
深部静脈血栓症による浮腫に対して圧迫を行うと、血栓が飛んでいきやすくなります
診断は、血液データの「Dダイマー」という数値を見ています
高値になると血栓ができている可能性が高いため、血管のエコーを行うことで血栓があるかを確認します
血栓がある場合、抗凝固薬(血を固まりにくくする薬)の投与や血管にフィルターを挿入する治療を行うことがあります
上肢ではあまり見られないため、当院では婦人科からリンパ浮腫の依頼を受ける場合は必ずDダイマーと血管エコーで血栓がないか確認してもらってから介入しています
発症の仕方がリンパ浮腫と似ており、外観では判断がつきません
過去にリンパ浮腫と診断されて介入した方が、深部静脈血栓症も同時に発症していたことが何度かありました
とても冷や冷やしながら介入しています
閉塞性動脈硬化症などの動脈血行障害
医療者間では「ASO」と言っています
DVTは静脈ですが、ASOは動脈の話です
ややこしい・・・
こちらは血管の病気なので、圧迫よりは血管自体の治療が必要になります
循環器科が主な診療科になると思います
注意しながら実施する場合
圧迫により血流が改善することで、心臓に戻る血流量も増えます
そのため、血圧が上がることがあります
もともと高血圧の方は、血圧を測りながら圧迫の圧を調整して介入しています
麻痺や糖尿病などで感覚障害がある場合は、きつく巻いてしまった時に気づきにくいことがあります
この場合はやや弱めの圧から始めて調整しています
やってはいけない状態で圧迫療法を行ったことで症状が悪化してしまうのは、医療者・患者さんともに辛いものです
しっかり判別してから介入することが大切です
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